自由を勝ち取る 革命的ブックカバー製作
この記事は前置きが長くなりますので、私にとっては前置きもかなり重要な内容ではあるのですが、完成したモノだけ見たい方は飛ばして頂けると幸いです。
私が2015年に行った展覧会の中で(3つくらいしか言ってないけど)印象に残っているもの中に「魔女の秘密展」で見た拷問器具たちがあります。
展示されていたのは「スペインの長靴」とか「棘のある椅子」「苦悩の梨」など、どれもえげつないものばかり。魔女疑惑のある容疑者側を苦しめ、時には死に至らしめるために最適化された造形に驚愕したものです。
こんな悪意に満ちた造形って他にあるんでしょうか?
例えば銃は人を殺すための道具ではありますが、その背後には「自分や他人の身を守るため」だったり「祖国を守るため」に必要な武力として製造されている面はある気がするし、「使われずに済むのが1番いい道具」っていうのが(基本的な)共通認識としてある気がします。機能的な面としては(使い方にもよると思いますが)相手を即座に死に至らしめることもできます。
これに対して拷問器具って明らかに「使うため」に製造されたものであり、これによって何かが守られるわけでもなく(当時の人たちは魔女から身を守ろうとしたのかもしれないけど実際何も守れていない)、相手を死なない程度に苦しめた挙句場合によっては殺すという全く擁護する余地のない最悪の機械のように感じたです。
その形状から容易に想像されるある意味純粋な”悪意”に(私を含む)人々は心を抉られるのかもしれません。
そして正直な所、私が何かものを作ろうと思ったときに拷問器具のような「心を抉る造形」というのは、酷く憧れてしまうものでもあるのです。
ブックカバーの話をしましょう。
上記の内容が今回のブックカバー製作の初期衝動みたいなものです。しかしながら、拷問器具のイメージで作ろうと思った当初は「何故自分は拷問器具に憧れるか」という所まで考えが至っていなかったので、漠然とした「それらしさ」みたいなものは組み込んだものの、”悪意”を詰め忘れたことについてあらかじめお詫び申し上げます。
拷問器具を連想させるものとして象徴的なのは、ねじ式のバイスによる締め付け機構が最もそれらしいとは思うのですが、今回は「拘束」を連想させる鎖を使用することにしました。(バイスによって本を持つ手の指を締め付けて固定し、手を離すことができなくするブックカバーというのも考えなかったではないのですが、さすがにボツにしました)
素材は革を使用します。今回は「血」のイメージで赤色のものを選びました。
ここまで決まった時点で物語を考え始めます。私がものを作るためには物語が必要なのです。
拷問を受けるのは基本的には罪人であり今回は鎖を使用することからも場所は「監獄」を想定することができます。
そして今回選んだ赤色の革!この革を見ているとどうにも感情が高ぶるなーと思っていたのですがその理由が分かりました。赤は「革命」を想起させる色です!(これは主にロシア、ソ連のイメージですね)
そして作られるものがブックカバーである以上は何かしらの「文学」的要素が必要となります。
「監獄」「革命」「文学」この3つの点を結ぶことができる1本の線!私が思うにそれは「フランス革命」であります!
「フランス革命」は、それまで貴族たちによって搾取されるがままだった第三身分の民たちが暴徒と化し、遂には貴族の地位をひっくり返し、当時の国王ルイ16世や王妃マリー・アントワネットを死刑するに至る歴史上の重大事件です。その口火を切ったのが当時の絶対主義の象徴でもあったバスティーユ牢獄の襲撃事件です。既存の価値観をひっくり返し自由を勝ち取るというのは文学的にも魅力的なテーマではありますし、バスティーユには襲撃事件の10日ほど前まで「ソドム百二十日」を執筆中のサド侯爵が収監されていたとされており、また「鉄仮面の伝説」など後に多くの作家に取り上げられるエピソードにも恵まれています。
今回のテーマは「フランス革命」、とりわけ「バスティーユ襲撃」に決定します。
囚人を拘束したり開放したりするブックカバーとは如何なるものなのでしょうか?
はい!
以上のことを踏まえまして出来たブックカバーがこちらになります。
わ、割とかっこいいんじゃないですか?
反対側。
文字はですね、出来もしないフランス語で書きましたので、いざ読めと言われると発音できないやつですが、意味は以下の通り。
「prise de la Bastille」バスティーユ襲撃
左側のはルイ16世がバスティーユ襲撃の知らせを受けた際に交わされたらしい会話。
「C'est une révolte?」暴動か?
「Non sire, cen'est pas une révolte, c'est une révolution.」いいえ閣下、暴動ではありません、革命です。
「le 14 juillet 1789」1789年7月14日
勉強になるなぁ。
本の背表紙のあたりに曲げ代(という言葉があるのかは知りませんが)がついており、本の厚みにより折り返す量を調節します。本の厚みに無段階で合わせられる機構にするのは私のちょっとしたこだわりポイントでもあります。
折り返したた部分が勝手に開かないように鎖で拘束します(やだ、監獄っぽい)。拘束具は100均で買ったヘアピンです。(弱っ)
囚人を解放するとこんな感じになります。曲げ代は結構あるのでたぶん京極夏彦とかでも入ると思います。本に取り付けたときに下に来る方の曲げ部は位置を固定しても問題がないので、曲げた状態で縫い付けてあります。
裏側。
いかがでしたでしょうか。
今回は割とかっこいいのができた気がします。かっこよすぎて電車とかで使うのを躊躇うレベル。欲を言えば文字の側が少し寂しい気もするので気が向いたときに何か追加するかもしれません(フランス王家の紋章でも入れようかしらん)。
これの欠点としては、鎖が重いので使ってる時に鎖の側がだらーんとなった挙句本から外れることがあります。これが結構不便!この欠点は鎖を使わないことにっよって解決することができます。機構に限った話で言えば別に鎖を使う必要はなく、紐とかでも問題はないので。
さて、
我々は自由か?
朝起きて仕事に行き帰ってきて寝て、また朝が来る。
身体は最早社会の奴隷ではないか。
では、心はどうか?
社会の観念、価値観にとらわれて本当の自分を失っていはしないだろうか?
居もしない他人のために生きてはいないだろうか?
奴隷根性を植え付けられ、ともすればそれを誇りに思ってはいないだろうか?
身も心も社会の奴隷に成り下がってはいないだろうか?
今こそ革命の時である!
囚われの自己を解放せよ!
読書による精神の解放を!
革命的ブックカバーを使って革命的読書ライフを楽しもうではないか!
以上!解散!
(フランスじゃないっていう)