破壊しよう、人生を 書を捨てよ、町へ出よう
昭和が面白い今日この頃。今回は寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」を読みました。
あらすじ!
稀代のアジテーター寺山修司による、つまらない人生をつまらないまま終わらせないための指南の書。
あらすじ終わり!
正直なところ、序盤は「何言ってんだこいつ頭おかしいんじゃねぇの」と思わなかったではないんですけど、進んでいくにつれて面白くなっていったので最初だけは老人の戯言を聞いてあげるくらいの気持ちで読み飛ばしてもいいのかと思った。それか、当時はこんな理屈がまかり通ったのかと感慨にふけってみたりしてもいいのかもしれない。だって「卓球より野球の方が、野球よりサッカーの方が男性的だ。それはタマがデカいからだ」(意訳)みたいなことが本気で書いてあるんですよ。(いや、飲み会のノリで書かれた可能性もあるけど。)さすがにこれでは「そこに気付くとは流石寺山!よ!寺山屋!」とはなれないので、序盤については「そうかー、当時はサッカーブームだったかー」「当時の若者は過激だったなー」くらいの感想でよかったかと。
名作って時代を切り取らないから100年前の本でも楽しく読めるものが多いと思うから、こんなに時代を切り取っている(たぶん)名作というのも逆に珍しいかもしれない。
後半はですね、割と時代を問わず楽しめると思われる話でした。
テーマ的には、「ファイトクラブ」とかが近いのかもしれない。
っていうのもですね。おそらく誰もが感じたことがあるであろう「人生のつまらなさ」に抗うための寺山式の方法論が語られるからであります。
曰く、「一点破壊による人間の回復を」
私たちが慢性的に「人生のつまらなさ」を感じてしまうのは何故か?
それは人生の先がほとんど完全に見通せてしまう状態を良しとする「バランス主義」によるものである。
人生この先結婚したり子供ができたり定年したり老後の生活なんかも考えないといけないから、それまでに貯蓄をうまいことやりくりして、とにかく全てのイベントを平穏無事に済ませることが素晴らしいのであり、そのためには身なり、食生活、その他の嗜みについても分相応であることが望ましく、細く長く天寿を全うすることこそが幸せなのである。
というのが「バランス主義」。何の修飾語もなしに使われる「幸せ」って言ったらたぶんこういうのを指すんではないかしらん。
そしてそれの全く逆をいくのが寺山修司でございます。
先の見え透いた人生なんてまっぴらごめんだ。金は賭博につぎ込もうぜ。分相応なんてくだらない。例え短い生涯でも美しく死ねれば本望でございます。さよならだけが人生だ。
という具合。
こうやって抜き出して書くとただのアホ頭みたいになっちゃうんだけど、ちゃんと本に纏められたものを脈絡に則って読むとちゃんと人生の教科書として読めちゃうんですよ。
極端に書くと上記のようになってしまうんですけど、なにも破滅の一途を辿ろうぜと言うような集団自殺推進の書ではないんです。なんと言いますか、つまらない人生に張りを与えるためにどこかで一つくらい極端なことやってみようぜ!ってくらいの解釈でいいんだと思います。
例えば賭博です。
人生この先働いて働いて終わるだけ。そんなのは嫌じゃないですか。
ならば競馬に行きましょう。ここらで一つドーンと当てて人生アがってしまいましょう。それは可能性で言えばほんの1000分の1%程度かもしれません。それでも完全な0ではないのならばそれは希望になりえます。
誰も絶対当たらないと思って馬券を買う人はいないのです。もしかしたらいつかデカい当たりが来るかもしれない。もし万馬券が当たったら会社なんてスパッと辞めて残りの人生遊んで暮らすんだ!と思い続けることができるならば賭博も結構悪くないんじゃないですか?
それに寺山修司のころよりも時代は進んでいるので方法は賭博に限る必要もないと思います。ちょっと大多数の人はやらないような極端なことをやってみればいいんです。
そんなにお金をかけない方法でも、youtubeとかニコニコに動画を投稿してみるでもいいし、同人誌とかを出してみるでもいいし、ミュージシャンとして路上デビューしてみるでもいいし、化石とか金とか油田を掘りに行ってみるとかでもいいでしょう。(出来れば先人のいない未開拓なゾーンを突くことができると素敵なんですが)
なんならこのブログだって書き続けてれば、なんか書籍化とかされてなんか売れてなんかもう働かなくていいやーみたいなことになる可能性が10000分の1%くらいはあるんじゃないですか。それってワクワクしますよね。
「それでもいつか、きっと」と希望を持つことによって人生の不透明さが増し、頑張る気力も湧いてくるものです。
寺山式の一点破壊の手法については私はだいたいこんなふうに読み取りました。本で読んだ方がこの手法についてもちゃんと理解できるし、面白いのでオススメです。
その他にも「一点豪華主義」の話や、「自殺学入門」など興味深い章がいくつもありますよー。
もしかしたらこの本を手に取った瞬間から「一点破壊」が始まるかもしれません。
読み終わったらこの本を捨てて街へ繰り出しましょう。
さよならだけが人生だ。
(正直、別に本を捨てる必要はないと思うんだけど)
BGM
上坂すみれ 「げんし、女子は、たいようだった。」
”書を捨てないで街へ出て キミと出会いたい”