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鉛甘味料うるたこんべ

変なもの愛されないものを主とした本、映画、工作、その他の記録

江戸川乱歩「双生児」 カフェオレ式による人類の救済

角川ホラー文庫から出てる短編集の「双生児」を読みましたよー。

変なものを愛でるタイプの人々にとって江戸川乱歩は基本中の基本って気がします。でも私は実はあんまり読んでないので、そこんとこちゃんとしようと思って今回食指を伸ばした次第です。

 

双生児 (角川ホラー文庫)

 

あらすじ!

江戸川乱歩の短編より一人二役モノ「双生児」「一人二役」「ぺてん師と空気男」「百面相役者」「一寸法師」を収録したコンセプト短編集。もしあの人に成り代われたとしたら何をして遊びますか。

あらすじ終わり!

 

一人二役モノを集めたっていう触れ込みの割には一人二役が主題じゃない話もいくつかあって、少々こじつけ感がないではないが面白いのでOK。個人的には「江戸川乱歩」と「一人二役」というキーワードでポーの「ウィリアム・ウィルスン」みたいなのかなと想像したけど読んでみたら全然関係なかったぜ。

 

 あと、古い日本の本って水戸黄門式で勧善懲悪を尊しとするものなのかと思ってたのだけれどそうでもないんですね。(むしろ勧善懲悪を尊しとしなかったからこそいつまでも新鮮で今まで楽しく読むことができるのかも)

 今回読んだ本に関して言えば勧善懲悪を尊しとしないどころか悪の方が魅力的に描かれてた気がして、サド式の勧悪懲善とまでは行かなくても、悪役側の方に随分とヒロイックな印象を受けました。死に際に遺恨を残す双子の片割れ、自分の遊びに他人を巻き込んで憚らないペテン師や、かたわの身でありながら闇夜に暗躍する大悪党の一寸法師、まるで得体のしれない百面相役者。

こうも揃いも揃って素敵だと、江戸川乱歩さんはむしろ犯罪者の側になりたかったんじゃないかと思えてきます。どうにかうまいこと世間を騙してあんなことやこんなことができないかと考え抜いた犯罪計画がうまくいかなそうなので推理小説にしたら世間を魅了することに成功した。みたいなサクセスストーリーを妄想します。いいなぁ。

 

江戸川乱歩の物語って思うに思考実験的なんですよね。まっとうに考えたらありえなかろうと、諸々の事情はなんやかんやクリアできたことにして究極の状況を作り出したとき人は何を思うのか?みたいなことが基本方針としてある気がします。妄想狂江戸川乱歩のあんなこといいな、できたらいいなが感じられてすごく楽しく読めます。。

 

双子だったら入れ替わりとかし放題じゃん、実際に入れ替わって自分じゃない自分として見る景色はどんなだろう?とか、あの人が自分に見せている顔と別の人に見せている顔は違うはずだ、別の人にはどんな顔を見せているんだろう?とか、昨日会ったあの人と今日会っている同じ顔をしたこの人は実は別人なんじゃないか?とか。

そんな素朴でくだらないような気さえする疑問、しかし実際の答えようと思うとなんか答えに窮する絶妙なところを突いてきます。あぁむず痒い。

ほぼありえないんだけれど、しかし絶対に無理かと言われるとそうは言い切れないような気もするからこそ、「ありえねー」と思考を放棄することなく「いや、しかし」と考えることができるのかもしれません。

 

あり得るようであり得ないような、分からないようで分かるような絶妙なフワッと感、白黒つけないまま中途半端を良しとするのが江戸川乱歩なのかもしれません。カフェオレですねぇ。

このカフェオレ感には西尾維新とかひねくれた感じの現代小説で出会ったことがある気がするんですけど、そんな昔からあったんですねぇ。

 

 

えー、ここでカフェオレ式の素晴らしさでも解いてみようかと思います。

私の憂いている現代日本の病として、「白黒病」がありまして、(病名は今適当に命名しました)要は、何でもけじめが大事であり、初志貫徹こそが素晴らしく、何事も無駄なく円滑に進めなければならず、無駄や中途半端は悪であり、悪は存在してはならない、みたいな風潮ってあるじゃないですか。

その価値観に照らして考えるに、私なぞ毛髪の1本すら存在してはならないことになるんですよ。なんてこったい。まぁ、私はそんなの関係なく無駄と中途半端の存在を愛してるタイプなので別にいいんですけど。

でも、無駄なく白黒はっきりした完璧超人なんてそうそういないにもかかわらず、こういう価値観が蔓延してるから鬱病とか心の病気になる人がいるんじゃないかと思います、立派な人たちは大変ですね。

しかしながら、私としては立派な人たちがどんなに心を病もうと関係ないし別にいいんですけど、あいつらは他人にも白黒を押し付けてくるから嫌いなんですよね。私が憂いているのはそこなんですよね。

どうにかして立派な人たちにいなくなって貰えないものか 。いや別に死んでほしいって訳じゃなくて、うまいこと白黒病患者の数を減らしてもっと日本が幸福にならないものか、って意味です。

 

で、第二次江戸川乱歩ブームの到来による日本人の救済なんてどうかと思うのです。

時は奇しくも江戸川乱歩の没後50年!TPPの網をぎりぎりで突破した江戸川乱歩著作権!歓喜する国民!群がる群衆!なんとなくブームだからというだけの理由で江戸川乱歩人口は増加の一途を辿り、知らず知らずのうちに国民たちは中途半端を良しとするカフェオレ式を体得するのです!したらなんか知らないうちに鬱病は絶滅し、祝福の花火が上がり、人類は幸福に包まれたのだ…。

みたいな。

 

これは非常に大げさに書きましたが、正直江戸川乱歩が人類を救済することはないですけど、特定の個人を救済するくらいならあり得る気もします。うん、なくはない。

 

 

そんなけったいなことを考えずに読んだって江戸川乱歩は超楽しいエンタテイメントなのだから、ただの暇つぶしでもいいし、イマドキの小説に飽きたなと思ったら読んでみればいいんじゃないでしょうか。

 なんせ著作権フリーだし。

 

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