鉛甘味料うるたこんべ

変なもの愛されないものを主とした本、映画、工作、その他の記録

金田一さんと怪事件探訪 病院坂の首縊りの家(原作の方)

初めての金田一耕助シリーズです!病院坂の首縊りの家

映画じゃなくて原作の方です!

病院坂の首縊りの家―金田一耕助最後の事件

なんでよりによって初の金田一耕助シリーズが「金田一耕助最後の事件」であるところの本作であるかという所でございますが、たまたま古本屋でこの素敵なハードカバーと巡り合うことができたからっていうだけでございます。本来ならもっと先に読むべきなのがあると思うんだけど、まぁ、いいじゃん。

 

まずはタイトルからいきましょう。

病院坂の首縊りの家

このタイトル!

横溝先生の本を読もうと思ってから他の横溝作品のことも調べてみたんですけど、「病院坂の首縊りの家」が一番かっこいいんじゃないかと思いました。もちろん主観ですが。「病院坂」と「首縊りの家」という訳が分からないけどなにやら不吉なワードが合わさった結果、相乗効果で4倍は恐ろしいタイトルになっています。 

 

で、この表紙絵ですよ!

風鈴と眼とお嫁さんという訳の分からない組み合わせが訳が分からないくらい恐ろしい素敵な表紙です。横溝作品は総じて杉本一文さんという方が表紙を描いておりまして、どの表紙も素晴らしく、一見の価値ありです。(ネットにまとめが上がっています)

背表紙にあるタイトルだけでも禍々しく、手に取って表紙を見ては戦慄する、本棚に置いてあるだけでも嬉しくなるような本!

80年代くらいまでの本とかその他カルチャーって、どこからきてどこへ行ったのかよくわからない、その年代にしかなかった謎の魔力を放つ作品群がある気がして、私もその魔性に取り付かれた一人であります。

 

内容に参りましょう。

あらすじ!

代々医者の家系の法眼一族の家庭の事情はびっくりするくらい複雑なのであった!

あらすじ終わり!

 

 しかしながら!その複雑すぎる家庭事情が全部が全部必要な複雑さであったかというと甚だ疑問でありまして、正直なところ読み終わった今でもちゃんと理解出来ていない(と思う)のだけれど、主要な血脈による因縁については(おそらく)理解できているので、そ、そこまで複雑にしなくても良かったんじゃ、、、と思います。

(これを簡略化するとつまらなくなっちゃうんでしょうか?どうなんだろう。)

この複雑さ、偏執的で素敵ではありますが、まぁ、そこまで頑張って全部理解しなくてもいいんじゃないかと思います。

かなり長い本で、横溝先生としてもあとがきに「長くなっちゃった、てへぺろ。」(意訳)って書いてるくらいなので、頑張って覚えても読んでる途中で忘れちゃいます。

しかも長くなりすぎたという自覚のある横溝先生は、ある真実が明かされるとき、関係する血縁や因縁についてはおさらいに行数を裂いてくれていますので、(それでまた長くなるけど)付箋を貼りながら読まないといけないようなこともないです。

 

新本格だとか変格だとかを読んできた身としては、これくらい古い作品になると、トリックだとかのミステリ的な面白さは正直あんまりないんだけれど、その後のミステリの下地になるような「本格の様式美」みたいなのが感じられてとてもよかったです。

血脈の因縁、見立て殺人、そっくりさん、忌まわしい土地、へっぽこ刑事に名探偵と殺人フラグびんびんビンちゃんな状況でやっぱり殺人事件が起こります。そんな胡散臭い素材をふんだんに盛り込んだ素敵な情景たちに酔うことができます。なんだろう、マムシ酒みたいな胡散臭さ。

見立て殺人なんかは、いまどきのミステリでやっちゃうとただの愉快犯みたいになっちゃう(と思う)から、やっぱりこの時代の本格の真骨頂な気がします。

 

で、なんといっても終盤!真実が明かされる告白パートの熱量!ですよ!

時を超えて世代を超えて溜めに溜めた因縁!恨みつらみ、憎しみ、そして愛!その他諸々の感情が溢れ出すようで長く読んできた甲斐があったと思えるラストスパートでございました。

最後の最後まで弱さを全く見せない、才色兼備の完璧超人であり続けた弥生さんが素敵です。そんなになってまで、法眼一族を守るために戦ってきたんでしょうか。

由香里さん()や滋さんも恐喝野郎もみんな”執念”みたいなものが非常に強くて、平成のシャレオツ文化によって失われてしまった妄信的な”熱さ”のようなものを感じました。

 

そしてエピローグ的に語られる金田一耕助の消失。金田一の最後は行方不明なんですね。リドルストーリーみたいで妄想の余地を残してるんですね。そういえば、この終わりなら「金田一少年」の方も存在する可能性が否定はできない訳ですね。

 

金田一耕助シリーズを初めて読んでみて、金田一耕助ってなんかよくわからない人なんだなーと思いました。別に悪い意味ではなく。作中で金田一耕助の主観で語られることがないから、金田一耕助は何が楽しくて探偵なんかやってるのか、とか、他の登場人物のことをどう思ってるのか、とか分からないんです(仲良さげにしてる割に相手のこと何とも思ってない、とか普通にありそう)。依頼がなければ動かなそうだから、「悪を絶対許さない正義超人」って訳でもなさそうだし、だからと言って金のためにやってるっていうのもなぁ、、、でも金のためにやってると思われたい人ではある気がするし、なんだろう、根はいい人で、恥ずかしがり屋さんなんでしょうか。

真実がどうだろうと端から見て好人物に映るのは間違いなさそうです。

 

えぇ。金田一耕助と共に怪事件を訪問するような楽しい読書でございました。