鉛甘味料うるたこんべ

変なもの愛されないものを主とした本、映画、工作、その他の記録

君の戦い方 「素晴らしき日々~不連続存在~」 教えて

素晴らしき日々~不連続存在~」をフルコンしましたのでなんか書きますよー。

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この「素晴らしき日々」はエロゲ名作選なんかでは毎回名前が挙がる作品で、私は(何故か)身構えながらやったのですが、噂にたがわぬ大傑作でした。

文学からの引用が多く、引用元がどれも気になってしまうので、フルコンするころには隣に本が積み上がっている読書家歓喜な作品です。(フルコンまでめちゃくちゃ時間かかったのにまだ終わらせてくれない!嬉しい!)

とはいえ「素晴らしき日々」のテーマとなっている最も重要な引用元は、

ウィトゲンシュタイン論理哲学論考」ですね。私は未読です。

論理哲学論考 (岩波文庫)

論理哲学論考 (岩波文庫)

 

 他の引用元、出てくる本は、(思い出せる限りで)

エドモン・ロスタン「シラノ・ド・ベルジュラック

ルイス・キャロル不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス

ニコラウス・クザーヌス「学識ある無知について」

ジャン二・ロダーリ「猫と共に去りぬ」

ガルシア・マルケス「予告された殺人の記録」

エドウィン・アボット・アボット「フラットランド」

アニメ、漫画、エロゲ、サブカルからの引用も多数、あとクトゥルー神話の邪神も名前だけちょっと出てきます。

 

なんかめちゃくちゃ敷居が高そうな感じがしますが(高いのも確かですが)、この辺りは分からなくてもいいけど分かったら嬉しいってくらいの認識でいいと思いますし、魅力的なキャラクターと物語の牽引力で敷居の上までぐいぐい引っ張ってくれるので、安心して下から手を伸ばすだけ、何も考えずに買って、やればOKです。人の背丈ほどもある敷居の上に上がってみると世界が違って見えるかもしれませんよ。(敷居は跨げよと)

 

また、いじめ、自殺、カルト宗教、薬物、その他犯罪などのインモラルな描写 が多々あるので、むしろ苦手な人にこそやってもらいたいエロゲです。

 

で、ここからネタバレありになります。

プレイ前に知ってしまうと面白味を大きく損なうと思われる部分がありますので注意。

 

OP たま 「電車かもしれない」


[MAD] ジャバウォッキーかもしれない

 

 

ここからネタバレありです。

水上由岐ちゃんと、間宮卓司、悠木皆守くんは皆守くんの体を共有する三重人格であることなど踏まえた上で、お気に入りの2人について書いていきます。

 

水上由岐

第一章「Down the Rabit-Hole」の主人公で、頭が良くて、読書家で、強くて、ひらひら服の似合う素敵な美少女です。こんな完璧超人なのに言動がおっさん臭い所があるからか、鼻につくようなこともなく、素直に好きになれます。もう、私が読んだことない本を読んでる娘は絶望的に好きだなぁ。大好き大好き! 

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この完璧超人の水上由岐ちゃんですが、物語が進んでいくにつれて、めちゃくちゃややこしくて曖昧な存在であることが分かってきます。

まず、身体の主である皆守くんの一人格として羽咲を認識できる由岐ちゃん。由岐ちゃんが消えかかっているときに現れる羽咲を若槻姉妹として認識する水上さん。過去に実在した羽咲を庇って死んだ由岐姉、と、少なくとも3人くらいの水上由岐ちゃんが登場します(呼称は私が勝手に決めました)。さらに、由岐ちゃんと水上さんは由岐姉の魂を持った幽霊のような、皆守くんの脳内疾患により生み出された妄想に過ぎないような。妄想に過ぎないのだとしたら由岐ちゃん、水上さんは皆守くんの願望としての水上由岐でしかなく、由岐姉とは全くの別人なんじゃないか。

みたいな。まさに不連続存在というか、もはや存在自体があゃしぃ。

どう解釈してもいいし、むしろ曖昧なままにしておいてもいいけど、どうする?みたいな問いそのもののような存在です。どうしよう。

 この問いについてどうこうする姿がエンディングでも描かれるので重要なテーマです。

 

そんな危うさが分かってくると、由岐ちゃんのおっさん臭さや、「どったの?」とかの微妙に違和感のある口癖が、由岐ちゃんの存在の証明のように感じられてとても愛おしくなってきます。好きな人は、存在していてくれるだけで嬉しいものです。

 

 

橘希実香

 橘希実香ちゃんは完璧超人じゃない方のヒロインなので、実際問題リアルに無力な私なんかは希実香ちゃんに非常に勇気を貰いました。水上由岐ちゃんが「憧れの人」だとしたら希実香ちゃんは「同志」とか「戦友」みたいな感じです。そして可愛い。f:id:urutakonbe:20170109180827p:plain

希実香ちゃんはいじめられっ子で、自分が圧倒的に虫けらであることに自覚的で、虫けらのままで、虫けらなりの方法で敵に立ち向かう姿が描かれます。その姿は勇ましくも儚げで、悲しいくらいに滑稽で、この上なく美しいです。

 

人間というのは不平等なもので、むしろ不平等な方が自然で当たり前だから、その中でどうやって立ち向かうかをちゃんと考えてるって感じです。私も「なぜ平等でないのか」式の論理はいまいちピンと来ないし、なんか勝てない気がします。

虫けらが人間に立ち向かうためには、虫の武器を使う必要があります。闇に潜み、相手の隙をついて、針で刺す、毒や細菌を使うなどの方法が有効でしょう。潰せば死ぬ虫ごときが、自分のことを人間と認識して、針も毒も抜かれてしまったら、それこそ戦いようがありません。虫パンチ、虫キックは人間に対して有効ではないし、虫が人間に助けを求めたり命乞いをしても、それは無駄なのです。

そのあたりを踏まえた上での、希実香ちゃんの戦いは本当に見事です。

 

希実香・ざくろエンドでは入手可能なあらゆる凶器、化学薬品、情報を駆使していじめられっ子に立ち向かい、遂に平凡で当たり前の日常を手に入れます。希実香ちゃんが作中で使用したナイフはエストレイマラティオBF2タクティカルタントー(声に出して読みたい)とか言うやつなのですが、このタントーブレードという種類のナイフを調べてみると、「深く突き刺しやすいデザインで殺傷能力に優れているが、キャンプなどの実用には向かない」のだそう。これは希実香ちゃんの実用(殺傷)に重きを置いたナイスなチョイスですね。

 

希実香・卓司エンドは、あらゆる手段や救世主パワーを使って最大限の勝利を修めます。これが本当に地獄のように幸せなハッピーエンドで、常識的に見てどんなに汚くても、狂っていても、間違っていても、最高に美しかったです。

 

 素晴らしき日々

 「素晴らしき日々」ってすげぇこの上ないくらいに漠然としたタイトルで、それゆえにいろんな意味を含んでいるというか、どうとでも解釈できる⇒自分なりに勝手にいろいろ解釈しろ!というような哲学的なタイトルだと思います。

明確な答えは出してくれないんだけど、選択肢は沢山提示してくれるので、私は自分が一番嬉しい意味に解釈してしまいます。

 

水上由岐ちゃんは幽霊でも、精神疾患の妄想でも好きな方でいい。ずっといてもいいし、いつか消えてしまってもいい。

希実香・ざくろエンドで勝ち取った平凡な日常こそが幸せかもしれないし、希実香・卓司エンドは狂っていても、間違っていても、死んでも幸せかもしれないし、なんなら、信者として意味も分からずに飛んだモブ共も幸せだったかもしれないし、もしかしたらみんなその逆で不幸だったかもしれないし、不幸でも幸せだったかもしれません。

って感じでどうとでも転ばせられます。

 

素晴らしき日々」はそのあたりの認識を広げるきっかけにもなり得るし、不幸でも虫けらでもこれで幸せになれるかもしれないし、というか単純に物語がめちゃくちゃ凝ってて、ギャグパートもマニアックで面白くて、あと、ちゃんとエロい、とてもいいエロゲでした。

 

論理哲学論考読まなきゃ。

 

ED「空気力学少女と少年の詩」


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