鉛甘味料うるたこんべ

変なもの愛されないものを主とした本、映画、工作、その他の記録

「ラヴクラフト全集1」を持って水族館に行こう

ラヴクラフト全集1を読みましたー。&読んでたら水族館に行きたくなったので行ってきましたー。

ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

 

ネット界隈でよく見かけるクトゥルー神話の創始者にして、宇宙的恐怖なるものの提唱者であるところのラヴクラフトさんとのことですが、よくわからないので読んでみました。

ラヴクラフト全集1の収録作品は以下の通り。

インスマウスの影」

「壁のなかの鼠」

「死体安置所にて」

「闇に囁くもの」

f:id:urutakonbe:20160710093556j:plain(インスマウス面)

 

まず、宇宙的恐怖って何ぞって話になるわけですが。

万物の霊長だなんだっつって地球の支配者面してる人間だけれど、深海とか地下深くとか宇宙には、もっと訳の分からん力を持ってたり、訳の分からんスーパーな知的生命体がいるかもしれない訳で、そいつらが気まぐれに、人間がアリを踏みにじるくらいの気持ちで猛威を振るったら、私らアリは訳分からんままなすすべもなく蹂躙されるだけな訳で、訳分からんけど超怖いよね。

みたいな感じでしょうか。

訳が分からないもの対する恐怖、想像力が豊かな「宇宙ヤバい」ですね。

 

で、おそらく「宇宙的恐怖」を重視した結果、怪物については「名状しがたい冒涜的な姿」みたいなえらいモヤっとした描写しかされないことになったのかと思います。おそらく「描写できる」=「理解できる」⇒「怖くない」、という方式。土地の話題とか建築の話題は執拗に描写してくるのに、肝心な所をボカされるなかなかにもどかしい読書でした。(細部をガチガチに固めてしまわなかったから、後年2次創作的に広まったのかしら)

題材は「宇宙人!」とかベッタベタのアメリカンなんですけど、このチラリズムはジャパニーズホラーにも通じる気もします。「闇に囁くもの」なんかは読みながら「遠野物語」に近いものを感じました。

 

f:id:urutakonbe:20160710163901j:plain(深き者ども) 

 

インスマウスの影」だけあらすじを書いときます。

”物好きな旅人が興味本位の軽い気持ちでで巷で噂のインスマウスの突撃取材に踏み込んだのだけれど、インスマウスは当初思ってたよりもずっとヤバい人外の支配する町であり、旅人は当然のように酷い目にあうのであった。”

 

この話に出てくる怪物は「深き者ども」とかいう魚人的な奴らなのだけど、件の「宇宙的恐怖」の演出によって怪物の描写が余りされないので、イメージが涌きにくくもどかしいです。魚くらいならもうちょっとちゃんと描写できるだろって気がするのですが。

まぁ、故人に文句を言ってもしょうがないので、私は水族館に行って名状しがたい魚たちのご尊顔を確認することにしたのです。

(そういう目で魚を見るのも楽しいかなと思って。)

 

f:id:urutakonbe:20160710172621j:plain(冒涜的に蠢く触手)

 

インスマウス=異界としての世界観の作りこみや、そこからの脱出劇は非常に緻密かつ緊迫感があり楽しく読むことができました。世界のどこかにはダゴン秘密教団に支配された村があって、崇拝者たちが夜な夜な謎の儀式を開いているのかもしれない、とか、人の寄り付かぬ忌まわしき土地で宇宙からの来訪者が会合を開いているかもしれない、みたいなことは考えられなくはないとはいえ、いまいちピンと来ないですよね。

ラヴクラフトは1890~1937年の人なのでエベレストの初登頂が1953年ってことも加味すると、まだまだ人類未踏の土地が多く残されていた時代だったと思うので、妄想も広がりやすかったのかと思います。邪教、密教もまだ沢山あったのかなぁ?

 

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(イア!イア!クトゥルフ・フタグン!)

 

あとは、狂気に至るまでの描写が非常にそれらしく描かれていて、いい感じです。全集1は、どの話も基本的に主人公の1人称語りなのですが、最終的にはみんな狂ってしまうので、もはや主人公本人にさえどこまでが現実でどこまでが妄想だったのかわからなくなって終わります。自分が狂っているような気もするし、自分以外の全ての人が狂っているような気もする。

誰も何も自分すらも信じられないっていうのはまた恐怖ですね。

 

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(目が狂気に満ちている・・・)

 

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(この世のものとは思えない冒涜的な造形だ・・・)

 

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(こんな生物が自然に発生したとは思えない。草間彌生にデザインされたのか・・・)

 

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(このかわいらしさ、名状しがたい・・・)

 

えー、というわけで、ラヴクラフト全集1は海に思いを馳せる楽しい読書でした。

読書って、書いてある内容に自分のイメージがついていけるようになるとより楽しくなると思うので、結局のところ外に出て実際に見てくるのも大事だなーと思いました。

水族館に行くにしても、今回の回り方と、普通に行った場合の回り方はまた別の味わいがあったと思うので、相乗効果でまだまだいろんな楽しみ方ができそうです。

 

書を持て、町へ出よう。

 

ED 筋肉少女帯パブロフの犬

(狂気っつったらこれ)