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鉛甘味料うるたこんべ

変なもの愛されないものを主とした本、映画、工作、その他の記録

不憫な松恵は救済されるべきか 鬼龍院花子の生涯

映画 読書

宮尾登美子さんの小説「鬼龍院花子の生涯」を読んだ後、それを原作にした五社英雄監督の映画版を観たので、それについて書きたいと思います。

 

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普段だったら、「原作の方を読んだら映画版とかは見なくてもいいかなー」と思っちゃうんですけど(逆も然り)、今回は気になったので。

っていうのもですね、映画の方は夏目雅子さん演じる「松恵」の「なめたらいかんぜよ!」という名台詞がある(らしい)っていうくらいの知識はある状態で先に原作を読んだんですけど、原作の方の松恵があまりにも不憫で不憫過ぎたものですから、格好良く啖呵を切る松恵がどうにも想像できなくて(というか松恵が啖呵を切るタイミングがあったか?)その疑問解消と、あるいは「不憫な松恵」が救われる世界もあるのかもしれぬと思い、見ることにしたのです。

 

あらすじ!

時は大正ところは高知、その界隈で名をはせた侠客”鬼龍院政五郎”人呼んで「鬼政」の家に養子として貰われた松恵。鬼政の嫡子でもなければ妾でもない松恵はやくざものたちの家でどのように生きたのだろうか。

あらすじ終わり!

 

原作

まず原作なんですけれども、「高知の遊郭で芸妓紹介業を営む岸田猛吾の子として生まれる」という宮尾登美子さんの経歴に裏打ちされた(と思う)確か過ぎる描写力を存分に楽しむことのできる本でした。

なんというかですね、全ての物事についてその背景から順序だてて、筋道の通った組み立て方をされている、みたいな感じです。原作本はまず、舞台となった高知県の納屋堀あたりの土地柄、時代背景の説明から始まるんですけど、(土地柄から始まることが既にね…)海が近くにあるこの町では人々はこういう仕事で生計を立てていて、潮風が生臭く、四六時中波の音が聞こえてくる、建物はこんな風でしけの時でも大丈夫なようになっている。労働者の組合みたいなのもあって誰々が取り仕切っている。

みたいな。すごく事細かく説明してくれているのだけれど、それぞれの要素が関係し合って結果的にこういう町になっているっていうのがよくわかるようにまとめられていて、この描写力はすさまじいなと思ったのです。

冒頭の50ページくらいが特にこんな感じで、別に明るい話題は全然出てこないのに(むしろ暗いのに)「懐かしい故郷について語る友人の話」を聞くような嬉しさがありました。

原作の方はこの描写力によって繰り出されるやくざ、侠客の商売の仕組みや、対外関係、女関係、内部の人間はどういう思いで暮らしていたか、みたいなことが楽しかったです。

物語的な楽しさもあるのだけれど、本全体に漂う暗く、何かを諦めたような雰囲気とか、松恵がただただ不憫過ぎて全く報われない感じがつらかったです。

物語の王道としては最後の最後には多少なりとも救われるものだと思うのですがこの原作にはそれがないものだから、松恵だけでなく、松恵が救われることを信じて読み進めた読者さえも絶望と虚無感の中に置き去りにする結果になっていました。

私も随分と虚無っていたのですが、今になって思うと、そういう所が作家、宮尾登美子さんの表現したかったリアルなのかもしれないなと。物語とか関係なく、読者に媚びることなく不憫な人を不憫なまま描き切った結果だったのかもしれません。

 

映画版

映画の方はそういう原作の性質からはむしろ逆をいくようなところがあって、原作が結構長い作品とはいえかなり内容が端折られてるし(ただしエロシーンは除く)、鬼政は割と小物臭いところがあるし、松恵が不憫なのは変わりないのだけれど、内容が端折られている分「生涯通しての不憫」感が薄いし、なんか最後の方で鬼政が「本当は松恵のことを大事に思っちょった」みたいなことを言い出すしで、うん、けっこう違ってました。そうか、これなら「なめたらいかんぜよ!」みたいな台詞が入るのも頷ける。

まぁこういうのは先に読んだ、観た方を正統とみなしてしまうやつだと思うから、映画から先に見たら「なにこれ原作暗すぎ」とか思ったのかもしれません。

 

映画を先に見ていれば「松恵のことを大切に思っちょった」くだりはすんなりと受け入れられるのかしらん。自分としては原作の方で松恵のことを最後までないがしろにし続けた鬼政や歌さんのことを知っているから、「どの口がゆうちょるか!」とちょっと怒りが湧いてくるくらいだったけど、 物語的な構成を考えたらやっぱりこうなるのかなぁ。この映画が不憫なまま終わる映画だったら、当時もヒットすることもなく今になって私の目に触れることもなかったのかもしれないからなぁ。

 

あ、でもあれです夏目雅子さんとかエロシーンはよかったです。「吉原炎上」のエロシーンは超えませんが映画1本で何人脱がすんや、五社英雄、と感心するほどです。昭和の女優さんって結構脱いでたよなぁ。

 

 

(そういえば「鬼龍院花子の生涯」なのに「花子」のことは全く書いてないなぁ…。でも花子はなんかどうでもいいんだよなぁ。)