鉛甘味料うるたこんべ

変なもの愛されないものを主とした本、映画、工作、その他の記録

美しき緑の星 あるいはプッチ神父の天国

「美しき緑の星」とかいうなんか異様な雰囲気を放つ映画を見つけたので見ました!

なにやらこの映画を見ることで”切断”され、大いなる目覚めに至ることができるのだとか。

はぁ。

 

あらすじ!

この星は地球よりも文明が進んでおり、貨幣制度はなく、機械の一つもない。みんなで作った食べ物や刃物を必要なだけ配給し、幸福で豊かな生活をしているのでした。そんな星から地球に、一人の女性が派遣されたのです。

あらすじ終わり!

 

この映画では派遣宇宙人ミラが全編通して現代の先進諸国で見られるような価値観、習慣、等をかたっぱしから古臭い偏った考えとして否定していき、正しい生き方、考え方を人々に伝えていきます。その考え方は実にシンプルかつ、本質をついており、その素直さが人々の胸を打つのです。

ミラたち宇宙人は基本的には地球の人々と変わらないのですが、物質的な文明を持たない分、「人間の中に眠る秘められた不思議な力」みたいなのが覚醒しており、パッと言語を習得したり、泡みたいなやつで地球に移動したり、テレパシーで話すことや、”切断”だって思いのままなのです。

 

”切断”っていうのがこの映画の楽しい要素の1つなんですけど、「”切断”って何?」っていうことをいまいちちゃんと説明してくれないので、言語化が難しいのですが。思うに、「社会と切れる」みたいなことかなと。

私たちはみんな多かれ少なかれ「自分自身の価値観」でない「世間の価値観」みたいなものを通して物事を見ている部分があると思うんですよ。”切断”というのはその「世間の価値観」から解放されるということ。

 

「世間の価値観」と「自分自身の価値観」は全然違うっていうのを言うために「子供のころは虫とか平気で触れたけど、大人になってからは気持ち悪くて触れない」という現象についての考察を述べますね。

私らって子供のころは虫とか触れたじゃないですか。あれって子供は社会を持たないからだと思うんですよね。社会を持たない子供としては何も考えず面白生物として虫を見たり触ったりしていたのに、年を経て社会に取り込まれてみると「虫キモイー!」「虫キモイー!」という人たちが周りに溢れてくるではありませんか。そんな社会の有り様を目の当たりにして子供は思うのです。そうか!虫はキモイのか!言われてみればそうだわ!キモイわ!「虫キモイー!」

 

べつにこれは一例に過ぎなくて、他にもいろいろある。むしろ「自分自身の価値観」よりも「世間の価値観」で判断している割合の方が多いんじゃないかと思ってる。

何はともあれ、たぶん”切断”されると虫は触れるようになる。

”切断”によって社会と切れることで物事をニュートラルな視点で見た結果、木とか自然が素晴らしく見えたり、俗世間に失望したりする。たぶん。

 

そういう考え方って間違ってないとは思うし、その境地にいたることを素晴らしいと思う人もいるのだろうけれど、私としては「美しき緑の星」の住人は素直にキモイと思った。

エコブームってあったじゃないですか。

あれって、節電だ!とか、廃棄物が少ないやつだ、とか、クールビズだ!そのためにいろんなものを我慢しろ!エコ技術を磨け!とか言ってるけど、ゆうて廃棄物もCO2も出るし、化石燃料は減っていく一方じゃないですか。えー?ちゃんと地球にやさしい生活をしたいんだったらー、最終的にはみんなして原始人みたいな生活に戻るしかなくねー。

みたいなことを誰でも考えると思うんですけど、それを実践したのがおそらく「美しき緑の星」の人々なんです。

 

「そりゃあ、間違っちゃあいねぇが、どうなんだい?」って言われがちかと思うんですけど私別にいいと思うんですよ。

 

考え方はいいと思うんですけどねー。好きですよ極論。その極論を実践してくる行動力にも、結果的にうまくいってるってことにも(創作とはいえ)感服でございますよ。

 

それなのに何がキモイって、

「緑の星」の住人って、「自分たちは100%完全に正しい」と思っているところなんです。

「緑の星」に比べて歴史が遅れている地球は、自分たちの星とおなじ歴史をたどるべきでありそれしか幸福に至る道はないと、心の底から思っているのが(映画なので演技ですが)ありありと伝わってくるのです。

キモイですねー。多様性を認めないってやつですねー。

キンザザでいう所のアルファ星の住人はきっとこんな感じな気がするわー。

それか、テレビで裸族のウルルンをやってるのを見て「服を着ないなんてかわいそう!」とか言い出す類のエゴ、あるいはプッチ神父の天国。って感じかしら。

(別に製作者がキモイってことはなくて、元々この映画って製作者の意図としても「頭のおかしいキモ宇宙人による地球大冒険」みたいな趣旨で作られてる気もするんだけれど誤解かしら)

 

おすすめのシーンは、”切断”オーケストラです。

あのシーンのなにが素晴らしいって、おそらく”切断”されてないソリストが、”切断”された団員に負けず劣らず、完璧に合わせているところです。何たるアンサンブル力(りょく)!マジ狂ってること甚だしいのだけれど、あれは、「音楽」ですよ。「真面目に」音楽をやっている人には是非見てほしいです。あー、あんなんやってみたいわー。

 

そんなこんなで、私としては大いなる目覚めに至ることは出来なかったけれど、「美しき緑の星」は今となっては(というか昔から?)珍しい、「世間の価値観」に媚びず!退かず!省みない!超弩級キモ映画として大いに楽しめました。こんなキモイ映画は「毒にも薬にもならない映画」の100倍見る価値があります。きっと、毒か薬になりますよ!